童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「ぼくと家族」
I・地震のこと         

 健ちゃんが空の上に行って2年たった1月、ぼくはもうすぐ1年生になろうとしていた。あと1か月で二人目の弟がもうじき生まれる。ところが、朝早く、ドーという音がして体が持ち上がるくらい、とても大きな地震があった。

 静かになっても、ぼくは震えていた。父さんが、大きなおなかの母さんに「出血してないか?」と聞いた。母さんは「わからない」と言った。ぼくは健ちゃんのことを思い出した。母さんもきっと思い出したにちがいない。

 父さんはふすまを開けると、「ちょっと待った。こりゃあ道をつくらんと歩けんから、そこで布団かぶっとき」と言って向こうに行った。

 大急ぎで掃除をしているみたいで、ガチャンガチャンという音や、「ワオー!アチョー!」と言う声が聞こえる。あれは半分遊んでいると思った。しばらくして戻って来て「道ができたよ」とのんきな顔で言った。

 母さんがトイレに行った時、ぼくに「健ちゃんの仏壇が吹っ飛んでいたから、見えないように片づけたんだ」と教えてくれた。母さんは「おなか、今はダイジョウブみたい」と言いながら帰ってきた。

 母さんのおなかがだいぶ大きくなったころに、父さんとぼくは「赤ちゃんが生まれたら、ふたりで赤ちゃんと母さんを守ろうな」と約束した。でも、作戦ができあがらないうちに地震が起きてしまった。それからも毎日地面が揺れて、赤ちゃんは、また1か月早く生まれた。

 テレビでは毎日、地震で死んだ人のことを話している。母さんと同じ部屋に入院していた二人のお母さんも、赤ちゃんが死んでしまったらしい。

 父さんが適当に片づけた家に、赤ちゃんと母さんが帰ってきた。名前は「周」。母さんは、健ちゃんが地球を一周して「ハーイ帰ってきました」って帰ってくるかもしれない、と思っていたらしい。

 「いのち」は周っているのかもしれない。だから『周』くんだ。

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