童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「おつや、おそうしき」
E・オソウシキ         

 夢を見た。赤ちゃんとぼくが遊んでいる。ぼくはどうやって遊んだらいいのかわからない。赤ちゃんが笑った。その小さな手が、ぼくのほっぺをなでる。握り返そうと思ったら、その手が引っ込んだ。そこで目が覚めた。隣に寝ていた父さんが、ぼくのほっぺをなでていた。それからまた寝てしまった。

 朝ご飯はちっともおいしくなかった。お坊さんがやって来て、「オソウシキ」というのをした。お坊さんは赤ちゃんの机の前で、またいっぱい「おきょう」をしゃべった。

 みんな黙って聞いていた。ぼくには何もわからなかった。しばらくすると、黒い服の知らないおじさんが「ゴシュッカンの時間です」と言った。

 父さんは「ちょっと待ってください」と言って、赤ちゃんの箱の中にミルクやおもちゃをいっぱい詰めた。おじさんが「プラスチックはカマをいためるので出してください」と言った。父さんは「はあ?そうなんですか」と言って、おもちゃを出した。

 「でも、少しくらいならいいですか?ミルクはいいでしょう?飲ませてやりたいんです」とミルクだけは入れた。そして、おじさんが離れたすきに、またいっぱいおもちゃを入れた。父さん、それでいい!

 父さんは突然「挨拶をします」と言って立ち上がった。「皆さんありがとうございました。むねんであります。せめておっぱいを一口、一口飲ませて・・・、飲ませて・・・」と言って泣いて挨拶は終わった。

 その後、ぼくたちは、赤ちゃんが入った箱と一緒に「サイジョウ」という所に行った。父さんは箱のふたを開けて、赤ちゃんの頭をなでた。箱は、壁の中の大きな引き出しに入れられてしまった。ぼくたちは赤ちゃんとさようならをした。

 帰り道、父さんが「こっちの方が、人も車も少ないから」と言ったので、遠回りをして竹やぶのそばを通ることにした。だれもしゃべらなかった。とっても苦しかった。トボトボ歩いた。もう少しで息が止まりそうだった。

 その時、どこかで鳥が「チッチッチチーッ」と鳴いた。みんな一斉に立ち止まった。そしたらおじいちゃんが、竹藪の上を見て「モズじゃ!」と言った。高い木のてっぺんに、しっぽの長い鳥がいた。もう一度「チッチーッ!」と鳴いてどこかへ飛んでいった。

 何だか苦しいのが少しましになって、息ができるようになった。あーよかった。それからまた、みんな黙って家に帰った。

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