市民から救急隊員の方々へ

−乳幼児の心肺蘇生法の積極的な普及啓発活動を望む−

 

中村徳子 1          円山啓司 2       越智元郎

託児ママ マミーサービス  2 市立秋田総合病院   3 愛媛大学医学部救急医学

 

プレホスピタル・ケア 第12巻 第4号 (通巻34号)平成11年10月発行

救急隊員のための実務情報誌

 


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 私は1996年よりSIDS(乳幼児突然死症候群)予防活動を行っているが、活動の中で市民・保育者に対する乳幼児の心肺蘇生法普及の必要性を強く感じた。

 また、1998年4月からは円山啓司氏(市立秋田総合病院)、越智元郎氏(愛媛大学医学部救急医学)と連携して「乳幼児の突然死撲滅キャンペーン」を全国で展開しており1〜8)、この活動の中で各地の救急隊の方々と交流させていただき、救急隊員による救命講習を拝見する機会も得た。

 本稿では、上記の活動を通じて、市民、保育者に対する乳幼児の救命法普及のために必要と感じたことを述べさせていただきたいと思う。

 

<厚生省「SIDS」対策検討会報告に思う>

 

 1998年6月に厚生省より発表された「SIDS対策に関する検討会報告」では、「母乳で育てよう・うつ伏せ寝はやめよう・タバコは控えよう」と予防については記載されているが、いざという時の対応(心肺蘇生法)については記載されていない。また、全国の保育施設へ送られた厚生省からのSIDSに関する通達の中にも、心肺蘇生法についての記載はなかった。

 厚生省からの通達については、全国の保育施設も積極的に取り組むので、心肺蘇生法の必要性等の記述がその中に盛り込まれていなかったのは非常に残念である。保育者が救急法の知識を持っていれば、それはSIDSだけではなく、保育園で起こりうる窒息、溺水等の場合にも十分に生かされるはずである。それだけに予防法だけでなく、万が一の時の対応方法の必要性についても記載するべきではないかと思う。

 今回、厚生省からSIDSの危険因子についての発表があったことで、逆に多くの

方々のSIDSに対する不安はさらに増している。この不安を取り除くためにも、ぜひ保育者だけでなく、乳幼児をもつ家族、妊婦やその家族の方々に、いざというときの対応方法やSIDSに対する正しい認識をもっていただけるような記載のしかたを今後期待したい。

<保育関係者への救急救命法の普及のために>

 呼吸停止やSIDSへの対応として救急法の習得が必要であることは、以前から、保育関係の雑誌や保育関係者対象の講演会等でもすでに述べられている。

 1998年8月に東京で開催された「乳幼児のための事故予防セミナー」における講演「重大事故の発生時の対応」の中でも、講師の帆足英一氏(東京都立母子保健副院長)が下記のように述べられている。

「保育・養育スタッフは、保母、看護婦の職種に区別なく救急車が到着するまで、蘇生に向かって最大限の努力を重ねなければならない。保育スタッフには、死亡の判定、診断をする資格はなく、したがってたとえ死亡していると思われても、児の救命に向けて救急隊や意思が到着するまで最大限の努力をすることが義務づけられていると理解していただきたい。呼吸停止や心停止といった異常事態を発見した場合、直ちに救急車の出動を要請したとしても、一般的には救急車が到着するまでに少なくとも5分以上を要するといわれている。この5分間に手をこまねいて蘇生への努力を怠った場合には、みすみす幼い命を失うことにもなりかねない。

 したがって、異常事態を発見した場合には、直ちに救急蘇生を行わなければならないのである。

救急蘇生の具体的な手順(ABC)としては、乳幼児の場合には、まず気道を確保する姿勢(A)を保持し、口移しの人工呼吸(B)と指先での心臓マッサージ(C)が必要となる。保母職といえども、救急隊員がかけつけるまでの間、この蘇生努力を怠ったり放棄したと判断された場合には、業務上過失致死罪の適用があり得ることを銘記すべきである。

民間人でさえも、海や山に行く際に救急蘇生法をマスターして今日において、乳幼児の救急蘇生ができない保育スタッフは、保育者としての適格性に欠けるといっても過言ではなく、その専門性に対して厳しい要請がなされていることを自覚していただきたい。

そのために、常日頃から、保母、看護婦の区別なく、直接処遇スタッフの一人一人が救急蘇生法について熟知するための実習を行う必要がある。」9)

 

 また、同様に、昨年、一昨年と同じセミナーで講義をされた厚生省SIDS研究班のメンバーの戸苅創氏(名古屋市立大学病院医学部小児科)も、保育従事者のSIDSへの対応として、「従事者は全てが心肺蘇生法(CPR)に習熟しているべきである。」10)と述べられている。子供の命を守るうえで、保育関係者が知識としていざというときの対応を習得していることは必要不可欠なことである。そして、そのことを保育者も認識し、乳幼児のかけがえのない命を守るために必要な救命手当てを積極的に学びたいとの気持ちをもっている。いざというときの対応に不安をもちながらながら保育をされている保育者(公立、認可、認可外保育園)のために、ぜひ多くの地域で乳幼児の救命講習会の開催を企画していただきたいと思う。

 また、受講者は、講習会修了時には心肺蘇生法を確実に理解できたと思っていても、時間とともにその手技等を忘れてしまうことが多い。しかしそれでは、いざというときに対応できない。そこで、1回限りの受講ではなく、定期的な受講が必要となる。また、日頃から心肺蘇生法のビデオ等を繰り返し見たりダミーで練習したりすることも、習ったことを忘れないためには有効である。

 救急法の知識のある保育者が数人いる保育施設でも、とっさの場合には、異常を発見してから119番するまでに時間がかかったり、救急車が到着するまでの行動等で誤った判断をすることがある。私もそうした話を全国の保育者からお聞きし、心肺蘇生法と併せてそのときの行動も知らなければ命を救うのは難しいことを知った。そうしたときの保育者の悔いや悲しみは深く、とても胸が痛んだ。

 それだけに心肺蘇生法の指導と併せて、119番通報時の電話のかけ方や、救急隊員がそばに到着するまで保育施設ではどのように対応したらいいのかということを、講習会の中で救急隊員の方々の立場から保育者へ伝えていただければ、保育者も自分たちの認識の間違い等に改めて気付くのではないかと思う。

 

<現行の救急救命指導に望むこと>

 母親たちもまた、幼いわが子の命を守るために必要な心肺蘇生法等の救急法を学びたいという気持ちを強く持っている。しかし、消防署や日本赤十字社の講習会受講時に習っているのは、ほとんどが成人の心肺蘇生法である。それでは、いざというときわが子に適切な対応はできない。

 また、乳児と成人では、人工呼吸法、心臓マッサージの位置等いくつかの相違があるが、そのことを知らない市民もとても多い。それだけに講習会では乳児の心肺蘇生法も併せた指導をしていただくことを望む。

 日頃から多くの子供に接している保育者でさえ、呼吸をしていても子供の様子が何となくおかしいと感じたときに119番通報をしてもいいのかどうか判断を迷う場合がある。それは保育者だけでなく、多くの市民も、よほどのことがない限り通報してはいけないと思っているのではないかと思う。特に夜中の場合は、近所へのサイレン音の配慮から、朝まで病院が開くのを待とうと我慢してしまい、中には容体がさらに悪化する場合もあると思われる。それだけに異常を感じたらすぐ通報してもよいことを受講者に伝えていただきたいと思う。

 また、市民が応急手当をしない理由の一つに、目の前で倒れた傷病者に心肺蘇生法を行った場合、もしやり方が悪く肋骨を折ったりして、逆に訴えられたら困るから何もしないというのがある。応急手当を行った善意の行為に対しては、たとえ悪化したとしても法的責任は問われないが、そのことを知らない市民は多い。これについても講習時に併せて教えていただきたいと思う。

 市民がもしそうした場面に遭遇し、何もしないで通り過ぎたとしても、何もしなかった自分の行為に対して自責の念にかられ、後で報道などでその患者の容態が悪化したと知った場合はさらに心を痛めることであろう。どうしても心肺蘇生法ができない人も、心肺蘇生法のすべてができなくても、自分のできること(119番通報、救急車の誘導、倒れている人の側で励ますなど)をするという気持ちだけでももっていれば、互いに協力しながら、みんなで心肺蘇生法も行うことができるかもしれない。いざとい

うときに自分のできることを行うことがいかに大切であるかということも、講習会の中で受講者に強く伝えていただきたいと思う。将来、多くの市民が助けを求めている方に自然に手を差し出せるようになると信じている。

 以上、活動を通じて保育経験者・市民の立場から感じたことを述べさせていただいた。各地で乳幼児のための講習会が開催されることを願っている。

 

[ ]

1)越智元郎、円山啓司、中村徳子:ネットワークを用いた乳幼児救急処置の普及活動について.エマージェンシー・ナーシング 199912(7):37-39.

2)住田 亮,武井健吉,小泉晶一:小児救急医療の現状と初期対応.エマージェンシー・ナーシング 199912(7): 10-14.

3)大山 太,剣持 功:乳幼児の救急看護.エマージェンシー・ナーシング 199912(7):15-19.

4)円山啓司:乳幼児救急のさまざまな疾患と処置.エマージェンシー・ナーシング 199912(7):20-25.

5)円山啓司:乳幼児の突然死―SIDSと応急処置−.エマージェンシー・ナーシング 199912(7):26-31.

6)中村徳子:子供の突然死に対する医療現場での精神的サポート.エマージェンシー・ナーシング 199912(7): 32-33.

7)津秋圭子:悲嘆の中の至福.エマージェンシー・ナーシング 199912(7):34-36.

8)安部哲夫:乳幼児救急と医療ヘリコプタ−.エマージェンシー・ナーシング 199912(7):40-41.

9)帆足英一:乳幼児と事故予防と応急手当.平成10年度乳幼児のための事故予防セミナー・.全国社会福祉協議会・全国乳児福祉協議会,   ,1998,pp75-80.

10)戸苅 :乳幼児突然死症候群(SIDS).平成10年度乳幼児のための事故予防セミナー.全国社会福祉協議会・全国乳児福祉協議会,1998,pp23-29.

 

[参照 インターネット・ホームページ]  

乳幼児の突然死撲滅キャンペーン     

プレホスピタルケアホームページ     

救急・災害医療ホ−ムペ−ジ        

託児ママ マミーサービス(SIDS予防活動)

 

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