小児科医の立場から

 


SIDSに遭遇したら一小児科医の立場から一


川口市立医療センター新生児集中治療科1〕,小児科2),救命救急センター3〕,病理4)

 

箕面嵜至宏1),奥起久子1),山南貞夫1),雪竹義也1)

安藤理奈1),滝敦子1),田中秀朋1),上野正浩2)

久手英二2),小関一英3),坂田一美4),山本雅博4)

 

Key words:乳幼児突然死症候群,SIDS,病理解剖

 

  @概要 @へ

  Aはじめに Aへ

  B川口市立医療センターにおける 乳幼児突然死症候群 Bへ

  C考案 Cへ

  DSIDSの疫学的調査との比較 Dへ

  E剖検の説明 Eへ

  F剖検体制について Fへ

  Gおわりに Gへ

  H参考文献 Hへ

 

概要

川口市立医療センターが開院した平成6年5月1日から平成10年10月までの4年6ヶ月に救命救急センター到着時に乳児突然死症候群が疑われた症例は,17例(3.8例/年)であった.厚生省研究班のデータからは,管内の人口から発生するSIDSは3.9例/年と推測され,ほぼ近似値を得た.

全国調査ではSIDSの剖検率は26.6%と低い.当院ではSIDS・SIDS疑い症例17例中12例(70.6%)に剖検を行い,剖検例の33.3%に他の死因(窒息・異物誤嚥2例,電解質異常1例,先天性心疾患1例)が確定した.

臨床病理検討会が終わった後に,家族に病理結果を報告しているが,SIDSは事故や親の不注意で起こるのではなく,病死であることをきちんと理解させる必要がある.また,ホームモニタリングも含めて次子を妊娠した時のこと,SIDS家族の会のこと等を付け加えて話している.

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はじめに

乳幼児突然死症候群(SIDS)は,わが国の乳児死亡の第3位にあげられているにもかかわらず,その原因は未だ十分には解明されていない.発見時にすでに死亡していることが多く,蘇生救命といった治療が間に合わないのが通常である.

SIDSの診断には剖検が必須であるが,私の勤務している埼玉県には,残念ながら監察医制度がなく,SIDSが来院した場合,当センターの病理医の努力によって病理解剖が行われているのが実状である.

当救命救急センター到着時に,臨床的にはSIDSと思われた症例でも,剖検してみると思わぬ死因が認められる例もあった.当センターが開設してからの4年6ヶ月間におけるSIDSの症例をまとめたので,埼玉県南地域のSIDSの現状と救急医療の中での小児科医の役割に関して報告する.

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川口市立医療センターにおける 乳幼児突然死症候群(SIDS)の現状

川口市立医療センターは,埼玉県南部地域の基幹病院であり,救急救命センター,ICU,CCU,NICUを擁する3次医療施設である.

川口市立医療センターが開院した平成6年5月1日から平成10年10月までの4年6ヶ月に救命救急センターへ3次救急搬送され,そのまま死亡退院した1歳未満の乳児はNICUへの搬送を除いて26名(5.8例/年)であった.その中で剖検が行われた症例は16例(61.5%)であった.

外見上,また病歴上,基礎疾患が認められず,内因性の到着時心肺停止(CPAOA)であったと考えられた児は20名であり,剖検が施行されたのは12例(60.0%)であった.初診時所見で窒息が明らかであった3例を除き,乳幼児突然死症候群(SIDS)が強く疑われた症例は17例(38例/年)であった.一般に全国調査などではこのSIDSの疑い症例までが対象に含まれている.

死亡時の月齢は日齢12から6ヶ月であり,月齢7ヶ月以上の症例はなかった.男女比は男児8例,女児9例であり,ほぼ同数であった.

発見時の体位としては腹臥位6例,仰臥位6例,側臥位1例,不明4例であった.両親の喫煙歴,栄養法等の成育歴は記載がほとんどなかった.SIDS・SIDS疑い症例17例の中で,剖検が施行されたのは12例(70.6%)であり,剖検によりSIDSと確定診断されたのは8例であった(表1).一方,剖検により他の死因が確定された症例が4例(剖検症例の33.3%)に認められた(表2).これらは剖検が行われなければ,SIDSの疑いとされる症例である.

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考案

発見された時の体位は腹臥位,仰臥位とも同数であった.しかし,SIDS確診例8例中6例が腹臥位であり,また剖検により他の原因が判明した4例すべてが仰臥位であったというのは偶然かも知れないが,興味深い結果であった.

また,従来の当院のカルテの中には,両親の喫煙の有無,母乳か人工栄養かの栄養法に関しての記載は残念ながらほとんど無かった.現在SIDSを念頭に置いた乳児のCPAOA症例のチェックリストを作成し,成育歴の記載漏れを防ぐようにしている.しかし,あまりこと細かく病歴を聴取することは,かえって児の死亡原因があたかもうつ伏せ寝や喫煙,人工栄養の直接影響であるとの誤解を招き,家族の自責の念を不必要に増長させる結果となるので,慎重である必要があると考えられる.

SIDSは,一般に発見時間は早朝から午前中が多いとされているが,当院のデータからはむしろ午後に多く認められている.これは午後母親が買物から帰宅してみると,児がベッドで呼吸停止に陥っているのが発見されるといったケースが4例もあり,埼玉県南部地域は,新興住宅地が多く,核家族化した家庭が多いためと考えられた.

剖検により他の死因が確診された症例は4例であり,窒息・異物誤嚥が2例,電解質異常(新生児期からのフォローアップミルク授乳による哺育過誤と考えられた)1例,先天性心疾患(僧帽弁閉鎖)が1例であった.これらは剖検が行われなければ,外見上はSIDSと考えられた症例であり,SIDSにおける剖検の重要性,必要性を示す症例と考えられた.

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SIDSの疫学的調査との比較

平成8年度全国調査では,SIDS死亡数526名(男児317名,女児209名),死亡率は,出生1000対0.44人であった.しかし,剖検率は26.6%に過ぎず,すなわち本当にSIDSであったかどうかは判っていない症例が大多数であったと考えられた.剖検すれば他の死因が特定された可能性があり,当院のデータからは,SIDS確診例の死亡率は出生1000対0.2〜0.3人ではないかと推測される.

川口・鳩ヶ谷市は人口50万,年間出生数5,500人,乳児死亡率3.6人/出生1000人である.小児救急疾患で川口市立医療センターがカバーする地域の人口はおよそ80万人であり,管内での年間出生数は8,800人と推定され,SIDS・SIDSの疑い症例は年間3.9例発生すると推測される.当院におけるSIDS・SIDSの疑い症例は3.8例/年であり,管内のSIDS推定死亡率は0.43/出生1000と,平成8年度全国調査とほぼ近似値を呈している.

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剖検の説明

当院では,救急隊から乳児の心肺停止(CPA)症例の連絡が入ると,新生児集中治療科,小児科へ応援要請が入り,救急救命医と共に小児科医(NICU医)が協力し診療にあたる体制を敷いている(図1).


剖検の同意が得られなかった症例は5例であった(表3).我が子の死亡という突然の出来事に対し両親の動揺は計り知れないものがある.SIDSの診断のためには剖検が必須であること,児はSIDSという病気で亡くなったのであって事故で亡くなったのではないことは証明してあげなければならないこと(特に育児を主に担っている母親のため),逆に剖検によって隠れていた病気が見つかることもあり得るということ,剖検は今しかできないこと等を説明している.

救急医,小児科医各々が剖検に対する同意の説明にあたっている.死亡退院した乳児症例26名中16例(61.5%),SIDS・SIDS疑い症例17例中12例(70.6%)と比較的高い剖検率を得ることができたが,同意を得られたのは救急医の場合が5/13例,小児科医が11/13例であった.また,外傷,溺水など死因が明らかな場合は剖検の同意が得られないことが多かった.死因が微妙な症例においては,小児科医の積極的な説明への参加が剖検率の上昇に寄与する可能性があると思われた.

家族にとっては児の剖検ということは,思いがけないことだけに,例外なく一旦は剖検することをためらう.しかし,剖検を承諾しなかった家族のほとんどが, 後になって剖検しなかったことを後悔している事実や,正確な診断が下されず,どうしてわが子が死んでしまったか判らないという状態が続くことが,両親にとって耐えられないことであることを,説明を行う医師は知った上で説得を試みるべきであろう.

当センターでは剖検後の肉眼的所見をもとに,死亡診断書の発行と説明を行っている.また,病理の最終診断書が出て,CPC(臨床病理検討会)が終わった後に家族に連絡して来院してもらい,病理結果を報告している.

SIDSは事故や親の不注意で起こるのではなく,病死であることをきちんと理解させる必要があり,今後何か疑問があれば説明をした医師に連絡をすること,次子がSIDSになるリスクは高くないが,次子を妊娠したら連絡をすること(ホームモニタリングについても),SIDS家族の会の存在を教え,連絡を取ってみてはどうか,等を付け加えて話している.

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剖検体制について

現在,埼玉県には監察医制度はなく,基幹病院の病理医の努力によって剖検が行われているのが実状と思われる.病理医が常駐していない病院では,SIDSが来院しても剖検することができない.行政解剖の枠の拡大や,地域毎に剖検センターを作って,承諾が得られればすぐに実施可能な体制がとれれば,剖検率の向上に役立つものと思われる.

 

おわりに

乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因は今なお不明である.現在育児環境の危険因子に関し検討が進んでいる.しかし,現在知られている育児環境の危険因子をすべて排除して育児をしたとしても,SIDSの発生は完全には抑えられないことを理解しておくことが必要である.SIDSには現在不明のなんらかの原因があり,危険因子はそれを増加させるに過ぎないと思われる.真の原因追究のために,乳幼児の突然死の症例の全例について剖検が行われる体制が必要であり,そのためには,医療関係者のみならず一般の人々にも正しいSIDSの知識を理解してもらうことが肝要であろう.

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参考文献

1)乳幼児突然死症候群に関する研究(分担研究者:仁志田博司).厚生省心身障害研究「小児の心身障害予防,治療システムに関する研究」(主任研究者:加藤精彦)平成6年度報告書,1995

2)乳幼児突然死症候群の育児環境因子に関する研究一保健婦による聞き取り調査一.厚生省心身障害研究「乳幼児死亡の防止に関する研究」(主任研究者:田中哲郎)平成9年度報告書,1998

3)山南貞夫:新生児室のSIDS.ネオネイタルケア1994;7:1022-1027

4)山南貞夫,金本勝義,大西寿和,田中秀朋,箕面嵜至宏,奥起久子:NICU入院中および退院後に見られたSIDSについて一全国主要NICUへのアンケート調査,第1報,厚生省心身障害研究小児の心身障害予防・治療システムに関する研究一平成7年度研究報告書,p14-18,1996

5)山南貞夫:Neonatal SIDS.小児内科1997;29(3):498-502

6)山南貞夫:Neonatal SIDS.小児内科1998;30(4):469-472

7)仁志田博司・編著,坂上正道ほか・監修:SIDSの手引き,東京医学社,東京,1993

8)仁志田博司:乳幼児突然死症候群とその家族のために,東京書籍,東京,1993

9)村岡美紀子ほか:川口市立医療センターでの乳幼児突然死症候群の取り組み,小児看護1999;22:1,38

10)SIDS家族の会:あなたがSIDSに出会ったら,心のサポートのためのガイドライン,1995

11)箕面嵜至宏ほか:埼玉県南部地区における乳幼児突然死症候群(SIDS)の現状,埼玉県医学会雑誌1999;34:391-395

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