童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「ぼくと家族」
H・父さんがいっぱい泣いた         

 2ヶ月くらいたったころ、父さんが大学生だった時の友達が集まることになった。

 父さんは「今は飲んで騒ぎたい気分にはなれない」と行かないつもりだった。でも、母さんから「みんな何も知らないんだし、このところ沈みっぱなしだから、ぱーっと飲んでくればいいんじゃない?私は大丈夫」と言われ、出かけていった。

 友達は男ばっかりで、父さんはこの集まりに行くと、いつもどうやって帰ってきたのか分からないくらい酔っぱらう。母さんはそれだけを心配していたけれど、その日は酔っぱらわずに帰ってきた。

 ぼくを起こさないように小さな声で、母さんと話をしている。ぼくは寝たふりをして、聞いていた。

 「カラオケのマイクが回ってきてね。『俺はこのあいだ子どもを亡くしたばかりで歌える気分じゃない。雰囲気を悪くして申し訳ないが、気にせずにやってくれ』と言おうと思っていたんだ。そしたら『子供を亡くした』の所で涙があふれ出てきて、もう収拾がつかなくなってね」。

 「何度も深呼吸をしたんだけど、5分ぐらい泣いて、やっと『すまん。』と言えた。そしたら誰かがマイクをとって海の歌を歌い出して、何もなかったように…」

 「あいつら、何て言っていいのかわからなくて、一所懸命考えて、結局、慰めもしなかった。無言で調子を合わせたんだろうね」。

 「不思議とそれからは、涙はもう出なかった。別れ際に『今日はすまなかったな』と言ったら、『えっ?』と不思議そうな振りをして、肩をぽーんとたたいてさよならした。下手くそな芝居だったけど嬉しかった」。

 「それにしても思いきり泣いたら、なんかすっきりしたよ。恥ずかしかったけれど、もうこれ以上恥ずかしいことないから、『どうじゃ?なんか文句あっか?』ってな感じでね。気持ちいいねー」

 やっぱり酔っぱらっているみたいだ。母さんは「行ってよかったね」と返事をしていた。見えないけど、たぶん泣いている。父さんは「今日はありがとう。もう寝てくれよ」と言ってお風呂に入った。

 父さんは今日、3つ勉強をしたらしい。@慰めの言葉がなくても慰めになることがあるA下手な芝居でも役に立つことがあるBいっぱい泣いて気持ちよくなることがある。本当に「行ってよかったね」。

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