童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「おつや、おそうしき」
G・ぼくが泣いた日         

 「オソウシキ」がすんでから、父さんはぼくの前ではもう泣かなくなったけれども、きっと一人でいる時に泣いているに違いない。

 ぼくは弟が死んでから、泣かなかった。ぼくが泣いたらおしまいだと思っていたのかもしれない。でも、健ちゃんが小さな箱に入って帰って来た3日後、ぼくは泣いた。

 家でおばあちゃんと遊んでいる時だった。何だか苦しくなってきて、突然「おしりっ!うんこっ!ばかーっ!」とわめき回った。

 おばあちゃんはびっくりしていたようだったけど、優しく「そんなこと言ったらいかんよ」と言った。ぼくは何回か「うんこ、ばかー」と繰り返し叫んだ後、「わーっ」と泣き出した。

 涙が次から次へと出てきて止まらなかった。困っているおばあちゃんを、蹴ったり、たたいたりした。おばあちゃんは暴れるぼくを抱いて、自分も泣いていた。

 ぼくはしばらく泣いたり暴れたりして、寝てしまった。何でそんなことをしたのかわからない。それからぼくは熱を出した。

 何日かたって、病院から母さんが帰ってきた。思っていた通り、とても遊んでもらえそうになかった。

 母さんはかわいそうだ。母さんのオッパイは、自分を吸ってくれる赤ちゃんがいなくなったことをきっと知らない。だから、どこかの赤ちゃんの泣き声が聞こえたら、自分を呼んでいるのかと思って、すぐに出てくる。

 でも健ちゃんはいない。吸ってもらえないので、オッパイがかたくなって、とても痛そうだった。オッパイを飲んでいない赤ちゃんも、飲ませていない母さんも、両方ともかわいそうだ。

 父さんはぼくに「オッパイが涙になって出ているんだよ」と言っていたけれど、母さんはオッパイがでてくると、涙も出てきた。

 母さんは、きっと健ちゃんにオッパイをあげていたんだ。痛くても、泣きながらでも、そうしたかったんだと思う。みんな悲しくて、つらい日が続いていた。

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