童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「おつや、おそうしき」
F・小さくなった赤ちゃん         

 家に着いてから、父さんはずーっと壁の方を向いて黙っていたけど、やっと「子どものお骨拾いなんかに行くのは、いやだな」としゃべった。

 おじいちゃんが「そんなことじゃいかん」と言ったら、父さんは「そんなことわかってますよ」と怒ったように返事して、また黙った。ぼくはおばあちゃんとおとなしく遊んでいた。知らないおじさんが呼びに来た。それからみんなで「おこつ」拾いに行った。

 引き出しの中に入った赤ちゃんは、おもちゃと一緒にいなくなっていて、灰と小さな骨があった。「おこつ」って何だろうと思っていたけど、小さな骨だったんだ。おはしで小さな骨を拾った。

 おはしとおはしで小さな骨を渡して、ふたのあるお茶わんにいれた。ご飯の時、父さんのおはしからおかずをもらおうとして、母さんに「お箸からとっちゃだめっ!」としかられたことがある。こんな時はいいのかな?

 赤ちゃんは小さかったけど、もっと小さくなった。父さんはおはしで灰の中をかき回し、骨をいつまでも探していた。おばあちゃんが「もういいでしょう?」と言って、父さんの手をそっと引っ張ったので、やっとおはしをおいた。

 ぼくはおばあちゃんに「赤ちゃんどこいったの?」と聞いた。「煙になって、お空に上っていったんだよ。あっちで楽しく遊んでるよ」。父さんも「ミルクもおもちゃもいっぱい持って行ったからね」と言ったので、少し安心した。

 ぼくは空を見上げた。青い空と白い雲しか見えなかった。大人はみんな下を向いていた。弟と遊べなかったことがとても残念だけど、弟はお兄ちゃんのぼくと遊べなかったことを、残念だと思うのだろうか?

 小さな骨を詰めたお茶わんはきれいな白い箱に入れられた。そして、父さんに抱かれて、家に帰った。「赤ちゃんは誰と遊ぶの?母さんもここにいるでしょ」と聞いたら、父さんは「天国に行くと、友だちがいっぱいいるらしいから遊べるんだよ」と言った。

 ぼくは思った。父さんはぼくに言ってるんじゃない。自分に言っているんだ。

 お空のむこうで元気で遊べるように、父さんと母さんは赤ちゃんに「健」という名前をつけた。とても元気という意味らしい。ぼくは「生まれる前にその名前をつけておけばよかったのに」と思ったけど、言わなかった。

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