童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「おつや、おそうしき」
D・オツヤは嫌いだ         

 父さんはお医者さんと難しい話をしていた。ぼくに「ここにいてあげてね」と言い、おじいちゃんたちとどっかへ行ってしまった。

 病室で、母さんは時々思い出したように「何でやろね、何でやろね」と言って泣いた。おばあちゃんは「なあ、何でやろな」と言って、母さんの肩をさすっていた。ぼくはずっと黙っていた。

 やがて、父さんが現れて、母さんとおばあちゃんを病院に残し、赤ちゃんを家に連れて帰った。赤ちゃんは白い箱に入っていて、かわいい服を着ていた。以前、家に帰る時のために、みんなで買いに行った服だ。そのとき誰も、赤ちゃんが死ぬなんて思っていなかった。

 赤ちゃんは死んだって言ってるけど、本当は寝ているのかもしれない。ほっぺをそっと触ったら、冷たかった。動かなかった。フワフワのきれいな布に囲まれてるけど、箱の中にはアイスクリームに付けるドライアイスが入っている。赤ちゃんは寒くないのだろうか。死んだら寒くないのだろうか。

 家に黒い服の知らないおじさんが来て、お父さんと「オツヤ」や「オソウシキ」の話をした。小さな机や白い布で何かの準備をし、やがて、お坊さんがやって来て、ぼくにはわからない「おきょう」をいっぱいしゃべった。

 ぼくはもう一人のおばあちゃんに抱っこされていた。何もしゃべっちゃいけない感じがした。家中が凍ったみたいで、何だか苦しかった。

 「おきょう」の後、父さんはお坊さんと難しい話をしていた。さっきまでは泣いていたのに…。元気の力が出てきたようには見えないけどな。

 晩ご飯を食べた。家の中には人がたくさんいるのに、とてもさびしかった。大人はお酒を飲んでいたけど、昨日と違っておいしくなさそうだ。病院に残された母さんは、もっとさびしいだろうな。箱の中をのぞいたら、赤ちゃんはまだ寝ていた。

 おばあちゃんがやって来て、「あんたたちはもう寝なさい」と言って、ぼくと父さんを無理やり隣の部屋に連れて行った。仕方なく布団に入った。おばあちゃんはぼくの背中をトントンしていた。

 おじいちゃんは結構酔っぱらって、大声で話をしていた。父さんが「こんな時にちょっと声がでかすぎる」と立ち上がると、おばあちゃんが「いいから寝てなさい!」と、父さんの手を強く引っ張った。

 こんなのいやだなと思ってたけれど、何だかとても疲れていて寝てしまった。これが「オツヤ」というものだったんだ。何だか知らないけれど、好きじゃない。

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