童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 「いのちが生まれ、命が消えた」
@・ぼくの弟         

 ぼくは拓。小学校5年生。4年前に弟ができて、「お兄ちゃん」と呼ばれるようになったけど、本当はその2年前からお兄ちゃんなんだ。

 これは、4才になって間もないころの思い出だ。

 2月のそんなに寒くないある日、母さんに赤ちゃんが生まれそうになった。これでお兄ちゃんになれる。お兄ちゃんになるのは不安だけど、はっきり言ってうれしい。

 赤ちゃんは3月に生まれる予定だったんだけど、ちょっと早くなったらしい。父さんがきのうの朝、おばあちゃんに電話をしていた。

 「きゅうに出血があって…。あと一ヶ月ですけれど…。はい、大丈夫だそうです。…ええ、無理にとめないほうが…。今から私もいっしょに…。よろしくお願いします」

 ぼくを保育園へ送った後、父さんは母さんを連れて病院へ行った。そして、母さんはいっぱいがんばって、元気な赤ちゃんを生んだ。ヤッター!弟ができたぞ!

 急に、ぼくが生まれたときの騒ぎを思い出した。もちろん、後から聞いた話だ。

 ぼくが生まれたとき、ぼくがなかなか出てこないので、大変だったらしい。母さんは何時間もがんばって、こめかみと言う所がいっぱい内出血した。父さんはずっとそばにいて、何度も母さんに思いきり腕をつかまれたので、たくさん傷がついた。二人ともそんな傷がついた事に、しばらく気付かなかったんだって。

 覚えてないけど、ぼくもきっと苦しかったと思う。便所そうじのパッコンパッコンするような道具で、お医者さんに頭を何度も引っ張られ、やっと生まれてきた時、頭が段々になっていた。父さんは「お正月のお飾り餅みたいだったよ。みかんを乗せて写真を撮っておきゃあよかった」と笑う。ひどいこと言うなあ。

 生まれてからは体が黄色くなって、死にそうになったから、血をぜんぶかえっこすることになった。父さんも母さんも病院の人たちも、血を探したり、救急車を呼んだりの大騒ぎだったそうだ。

 ずっと後でこの話を聞いたとき、父さんが言った。「君は生まれたがったし、生きたがった。そして父さん母さんだけでなく、いろんな人のお世話になったから、生きることができたんだ。これからは、自分の力で人生を切り拓くように、拓という名前をつけたんだよ。わかってくれよ」

 ぼくには、まだわからない。今度も赤ちゃんを産むのは大変だったのだろうか?

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