童話『忘れないで』

著者:田上克男氏
NPO法人 SIDS家族の会 近畿支部代表

         

 まえがき         

 この童話は、最初私自身の気持ちを確認するための記録でした。やがて妻にとって 空白の時間の出来事を、彼女に柔らかく知らせるための詩になり、童話になりまし た。息子に話し手になってもらったのは、思春期の彼に、弟の生と死を忘れないでい て欲しかったからです。また当時の彼の優しい心と親の思いも忘れないで欲しかった のです。ですから童話の題名は『忘れないで』にしました。

 息子に原稿を見せ『これを人に見せてもいいか?』と聞くのには、結構勇気が要り ました。読む彼のほうもそうでした。彼は悩んだ末、新聞に掲載することに、同意し てくれました。

 その夜二人で、弟や母親のことをたくさん話しあいました。彼に了解を得たその日 は、たまたま彼と二人きりの夜で、それは私にとって至福の時間でした。

この童話は、子供を亡くした人を泣かせるためのものではありません。 悲しい出来事を『なかったことにする・忘れる』ための努力が、ほとんどの遺族に対 してなされます。それはたいがい失敗しますし、実は遺族の立ち直りを妨げることになります。多くの遺族とのお付き合いで、私はこのことを学びました。遺族は悲しい事実を忘れるのではなく、それなりに事実として受け入れ、我が心の一部とすることによって生きていきます。私たちの活動は、そのためのささやかなお手伝いです。

 ある小学校のあるクラスの児童たちから、手紙が来ました。先生が童話を読んでく れ、一人一人が私に手紙をくれたのです。いのちや家族の絆などについての、私など が思いもよらぬ感想もあり、そのみずみずしい感性に脱帽し、安心もしました。童話 が、こんなふうに読まれたら、一番の幸せです。

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